野分の吹く頃に | |||
「土方さァん」 すぱん!と勢いよく障子を開けて部屋に入ってきたいつものシルエットに、土方は畳に寝転がったまま、ん、と返事をした。逆光と横殴りの野分を受けてきらきらと輝く金の髪の少年が、ずかずかと部屋に入り込んでくる。あえて土方が何の反応も示さないのを見て、少年は「遊んで下せェよー」と、土方の背中を足でつついた。 「俺ァ今忙しいンだよ」 土方がごろりと寝返りを打つ。 「寝ながら何の仕事ができるって言うんでさァ」 「俺ァ心にオフィス持ってンだよ」 「へェ。じゃ、腹かっさばいて見てみやしょうかィ」 鯉口を切る音。土方が慌てて起きあがると、少年はニヤリと笑って刀をしまった。少年の心なしか紅潮した頬に、ぽつ、ぽつ、と血が飛んでいる。 「お前どうしたんだその血」 思わず土方が沖田の頬に触れる。まだ乾ききっていなかったのか、頬に二筋の赤い線が伸びた。少年が土方の手首を掴んで、 「心配しなくてもこれァ俺の血じゃありませんで」 と言った。うるさい黒猫に会ったんでさァ、と毒づく。 「無駄な殺しはするなって言ってンだろ」 「じゃあ、土方さんが相手になってくれるんですかィ」 「ならねェ」 「…つれねェお人だ」 お前と立ち合いなぞしたら、命がいくつあってもたりねェだろうが、と沖田の目を見ながらおもう。剣を握ったときの瞳に宿る、冷たい炎。細身の身体から立ちのぼる、じっと立っていられないほどの殺気。こいつは、人を斬るために生まれてきたような男なのだ。人を捨てなければ、こいつには勝てない。 少年が諦めて土方の手首を放す。そして、少し可愛く小首をかしげて言った。 「土方さん、いつかアンタが死にたくなったら、俺が殺してあげまさァ」 開けっ放しの窓から入ってきた秋風が、二人の髪を揺らす。少年の金髪が確かにきらきらと輝くのを、土方は見た。 |
2005-9-26