あおぞら

「何で星が光るか知ってる?」

まだ星も出ていない真昼間の空に向かって、銀八がぼんやりと呟いた。それが自分に宛てられた言葉だと気付くまでの多少のブランクののち、土方がさあ、と答える。
「何でもいいから言ってみてよ」と銀八。なぜそれを俺に聞くかな。土方が困り顔をつくった。

「考えてる?」銀八が土方の顔を覗き込んできた。近い近い近い。おもわず上体を仰け反らせつつ、土方は「考えてません」と咳き込んだ。だから、なぜそれを俺に聞くかな。

「寂しいこと言うなあ土方君」
土方の素っ気ない返事に肩をすくめて、銀八が屋上の手すりをぎいいと揺らす。先生、そこの手すりそろそろやばいって教頭が言ってましたよ。屋上からの自由落下は結構きついとおもいますが。
「でも先生なら飛べるかも知れませんね」
「何よ」
「いや、何でも」
「土方君いつもそれだよね」
「口癖なんで」
可愛くねー。銀八が紫煙を吐きながらぼやく。はい、可愛くないです。土方も紫煙を吐きながら頷く。

「何で星が光るか知ってる?」銀八がもう一度聞く。
「先生の心を映してるからじゃないですか」煙草を踏みつぶしながら土方が言った。飛行機が青空に線を引いて、ふたりの視界を横切ってゆく。ひとつなぎのエンジン音。

「…ふうん、そっか」

チャイムの音に引き摺られて教室に帰って行く土方の背中に向かって、銀八は再び紫煙を吐いた。澄んだ青空に濁った煙が登ってゆくのを眺めつつ、煙草を止めようかな、とおもった。

2005-1-29