骨 |
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散歩していたら骨を見つけた。腐葉土から真っ白い骨がニョキ、と生えていたのだ。 骨の表面が、かなり前から降り続いていた小雨に洗われて白く光っている。雨はほんの数分前に止んだばかりだ。自然に雨音もぴったりと止んで、曇り空が妙な静寂を奏でていた。 銀時は傘を閉じることを忘れていたことに気付き、ばさりと音を立ててそれを畳んだ。傘の薄っぺらいナイロンの生地からわずかな水滴が落ち、骨のうえにはたはたと降り注いでいく。 誰の骨かな、と銀時はおもった。ふつう骨だけを見ても、それが元々動物だったか人間だったかなんて判断は素人にはできないだろう。しかしそれでも銀時は、この骨の持ち主は人間じゃないかな、とおもった。結局人間も動物なのだ。それならヒトの骨のほうがわかりやすくていい、とおもったのだ。 そういえば最近土方を見ていないな。 この骨が生前煙草を吸っていた様子をおもい浮かべた。妙にしっくりくるな。銀時は億劫そうにしゃがんだ。骨が目の前にあって、何ともいえない息苦しさを感じた。まるで骨が周辺の酸素を吸収しているようだ。こいつまだ生きてるんじゃねえか、と銀時は右手人差し指で骨を撫でた。触れた指に移ってしまいそうな白さだった。 この骨が生前刀をギラギラ振り回していた様子を想像してみた。これも妙にしっくりくる。そうか、やっぱりな。銀時は骨を引き抜こうとした。なかなか抜けずに、きつく握りしめた指先だけがどんどん痛くなる。この骨もしかして地殻から生えてるんじゃないか、とほとほと呆れながら、銀時は湿った手を拭った。ようやく着物が土で黒く汚れてしまったことに気付いたとき、後ろから声がした。 「何やってんだ」 「あ、土方くん」 土方が腐葉土の上にしゃがみ込む銀時を見下ろしていた。雨は止んだというのに、土方は傘を差したままだった。 そうか、やっぱりな。拭ったばかりの手はまた濡れていて、どことなくさっきより指先が白いような気がした。 |
2007-4-22