流星ビバップ

秋の夕闇が、土手の芝生に転がる二人の男の上に静かに降り積もってゆく。しだいに色を失いつつある秋の芝の草いきれが鼻腔をくすぐるのを感じて、黒髪の男が目を開いた。

「寝てやがる」

隣の銀時はスウスウと幸せそうな寝息を立てている。呼び出したのはオメーだろうがよ、と土方は寝転がったまま足を組んだ。久しぶりのオフはすこし長すぎて、連日の仕事に慣れた身体には逆に違和感をもたらすくらいだった。暇を持て余して銀時の誘いに乗ってみたのはいいものの、さっきから彼は夜の帳がおりつつある天を仰いだまま眠っている。ついに星が瞬き始めた空に向かって、土方はてのひらを突き出した。最近の攘夷志士との抗争でつくった甲の傷が、薄闇の中からぼうと覗いた。

「なんかいいことねえかな…」

胸ポケットに入った煙草を取り出す気力もなく土方は呟く。今回のオフも何一つオフらしくなかったと、そのため息が語っていた。組んだ足が痺れだすのと同時に、夜に突き出した右手の中指から薬指にかけて、光の筋が走った。それが流星だと認識する前に、なかばやけっぱちになっている土方の口から、

「いいこといいこといいこと」

という呪文が漏れた。願掛けをするなんて何年ぶりだろうか、とひとり苦笑いする。子どもの頃以来だ。どうやら俺は相当疲れているらしい。もう今日何回目かわからないため息。しかし、それは結局出ることは無かった。唇をふさがれる。柔らかい唇の感触が一瞬伝わって離れて行った。甘い香りと銀色が残る。何、という言葉は出なかった。ただ、銀時とキスをしたという事実だけが、闇とともに土方の中に沈んだ。

「いいこと」

銀時がしたり顔で言う。スライトキスの名残がまだ残った唇の形を変えて、土方は薄い笑みをつくった。流れ星が静かに消える場所で、時間だけが彼らの頭上を過ぎてゆく。次のオフはどうしよう、という銀時の問いに、土方は答えなかった。

2005-10-9