秋へ繋ぐ手

「土方君、お金持ってる?」

優しい風が紅葉の木々を揺らす午後。陽もほどよく傾いて、今はもうお八つ時である。赤い毛氈の上にふたり腰掛けて、土方と銀時は饅頭を食べていた。オフの 度に銀時に屯所から引っ張り出されるのにもすっかり慣れた土方が、金か、と言いつつ茶を啜る。銀時におごらされるのはいつものことだ。幕府お抱えという職 に就いている土方と、よく言えばフリーター、悪く言えば無職の銀時。さすがに収入には雲泥の差がある。仕様ねえ、と土方は隊服の内ポケットに手を入れた。 しかし、長年愛用している黒革の札入れはない。入れてきたはず、とおもい巡らせて、今朝金が無いと泣きついてきた近藤に貸していたことをおもいだした。

「すまん。忘れた」

悪びれもせず言うと、銀時がえええ、と情けない声を上げた。俺も持ってないんだけど、と頭を掻く。

「テメエも持ってねえのかよ…」
「だって土方君いつもおごってくれるじゃん」
「はァ」

それはだなァ、と開きかけた口を、銀時の右手にふさがれる。空いた左手で饅頭の最後の一個を食べながら、銀時が小声で囁いた。

逃げんぞ。

すぐさま有無を言わさず手を握られ、引っ張られての逃避行が始まる。茶屋のおやじの怒鳴り声を聞きながら、手を繋ぐのは初めてだ、とおもった。紅葉ざわめ く林を突っ切ってふたりは走る。このままどこへでもいけそうだなあ、と銀時が言った。目覚しく変わる景色の中で、コイツとならどこへいってもいいな、とおもった。

2005-1-09